ワキガ
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ワキガ(腋臭症)とは

医学的に「腋臭症(えきしゅうしょう)」と呼ばれるワキガは、アポクリン汗腺が発達しやすい思春期以降に発生し始め、20代でピークを迎えるとされています。女性よりもアポクリン汗腺が多い男性の方が、ワキガの重症度が高いとされています。
日本ではワキガの発生率は約10%とされ、この数値は欧米と比較すると低い割合です。日本人は臭いに対して敏感な傾向があり、そのため、自然な体臭として受け入れられることが多い欧米と比べ、ワキガがコンプレックスとなりやすく、日常生活に支障をきたすケースがあります。
ワキガの原因であるアポクリン汗腺はワキだけでなく耳の中にも多く分布しているため、ワキガの方は耳垢が湿っている傾向があります。また、ワキガには遺伝的要因も関係しており、親がワキガの場合、子どもに遺伝する確率が高くなります。
汗腺について

汗を分泌する汗腺には、「エクリン汗腺」と「アポクリン汗腺」の2種類があります。エクリン汗腺は全身に分布しており、皮膚表面に直接開口しています。分泌される汗の成分のほとんどが水分で、サラサラとしているのが特徴です。一方、アポクリン汗腺から分泌される汗には、水分だけでなくタンパク質や脂質、脂肪酸などが含まれています。アポクリン汗腺は、次のような部位に集中して分布しています。
ワキ
乳首
陰部
外耳道(耳の入り口から耳の奥の鼓膜までの通り道)
ワキガの原因

ワキガ特有の臭いは、おもにアポクリン汗腺から分泌される汗や皮脂が、常在菌によって分解されることで発生します。アポクリン汗腺から分泌される汗自体は無臭ですが、ワキの皮膚常在菌と混ざり合うことで、低級脂肪酸や揮発性の硫黄化合物などが生成され、独特な臭いが発生します。
ワキガの臭いは、以下のような表現で表されることが多いです。
硫黄臭
温泉でよく嗅ぐ臭い
スパイシー臭
スパイシーな香辛料の臭い
雑巾様臭
生乾きの洗濯のような臭い
ワキガの診断
ワキガの診断は、主に問診や臭いの重症度を評価する検査によって行われます。問診では、以下の内容を参考にしながら総合的に判断します。
ワキガの発症年齢
耳垢の性状
家族歴
臭いの検査では、主にガーゼテストが用いられ、重症度を判断します。ガーゼテストでは、ワキの下にガーゼを挟み、その臭いを嗅覚で客観的に判定します。
ワキガの重症度評価:ガーゼテスト
ステージ
判定基準
ステージⅠ
臭わない
ステージⅡ
ガーゼがわずかに臭う
ステージⅢ
鼻にガーゼを近づけると臭う(軽度)
ステージⅣ
ガーゼを近づけなくても臭う(中度)
※横にいてわかる程度
ステージⅴ
ガーゼを手に持っただけで臭う(重度ワキガ)※人を間に挟んでいてもわかる程度
ワキガの治療
ワキガの治療法
ワキガの治療法には、病気の根本的な原因を取り除く「根治療法」と、症状を抑えることを目的とした「対症療法」があります。
根治療法では、手術によりアポクリン汗腺を直接取り除く「剪除法(皮弁法)」や、マイクロ波でアポクリン汗腺を焼灼・凝固する「ミラドライ」が行われます。対症療法では、「エクロックゲル5%」や「ラピフォートワイプ2.5%」などの外用薬の使用、またはボツリヌス毒素を注射する「ボトックス注射」などが実施されます。
ワキガの治療法
治療目的 | 治療法 | 医薬品名/手術法/医療機器 | 保険適用 |
---|---|---|---|
対症療法 | 外用薬 | 塩化アルミニウム製剤 | なし |
エクロックゲル5%※ソフピロニウム臭化物ゲル | あり | ||
ラピフォートワイプ2.5%※グリコピロニウムトシル酸塩水和物液 | あり | ||
注射 | A型ボツリヌス毒素製剤(ボトックス注射) ※A型ボツリヌス毒素 | あり重度の原発性腋窩多汗症 | |
根治療法 | 手術療法 | 剪除法(皮弁法) | あり |
マイクロ波メス | ミラドライ | なし |
※一般名

外用薬
ワキガ治療で使用される外用薬は、塩化アルミニウム製剤、エクロックゲル5%、ラピフォートワイプ2.5%があげられます。
塩化アルミニウム製剤
塩化アルミニウム製剤は、ワキガの治療だけでなく、身体のさまざまな部位で発生する多汗症の治療薬としても使用されています。
使用方法はシンプルで、塩化アルミニウム溶液をワキの下に塗布します。塩化アルミニウムが汗に反応することで内容物が凝縮され、塊として形成されます。この塊が汗管を塞ぎ、発汗の抑制につながります。即効性はなく、効果が現れるまでには2〜3週間ほどの時間を要します。また、対症療法のため、症状が改善しても継続して塗布する必要があります。
塩化アルミニウム製剤は保険適用外のため、自費診療となります。
エクロックゲル5%
原発性腋窩多汗症の患者さまには、保険適用でエクロックゲル5%(一般名:ソフピロニウム臭化物ゲル)が使用されます。
原発性腋窩多汗症の原因としては、神経伝達物質であるアセチルコリンがエクリン汗腺にあるムスカリン受容体サブタイプ3(M3)を刺激することが挙げられます。エクロックゲルは、アセチルコリンがM3受容体を刺激するのをブロックし、発汗を抑制する作用があります。
1日1回、適量をワキの下に塗布することで効果を発揮します。効果の現れ方には個人差があり、症状の改善を実感するまでには一定の期間が必要な場合もあります。対症療法であるため、効果を維持するには継続的な使用が必要です。
原発性腋窩多汗症
多汗症の中でも、腋窩からの汗の量が通常よりも多い状態
ラピフォートワイプ2.5%
原発性腋窩多汗症に対する保険適用の治療薬には、ラピフォートワイプ2.5%(一般名:グリコピロニウムトシル酸塩水和物ワイプ)もあります。
ラピフォートワイプも、エクロックゲルと同様にアセチルコリンがM3受容体を刺激するのを防ぎ、発汗を抑制する作用があります。
使用方法は、ラピフォートワイプが含まれた不織布を1日1回、ワキの下に塗布します。効果の現れ方には個人差があり、症状の改善を実感するまでに時間がかかる場合もあります。また、対症療法であるため、効果を維持するには継続的な使用が必要です。

ボトックス注射
ボトックス(一般名:A型ボツリヌス毒素製剤)は、重度の原発性腋窩多汗症に対して保険適用が認められた薬剤です。ボトックスの主成分であるA型ボツリヌス毒素は、アセチルコリンの放出を阻害する特性を持ち、発汗を抑制します。
ボトックス注射の発汗抑制効果は、治療開始から数日で現れ始め、個人差はあるものの4〜6カ月ほど効果が持続します。ただし、効果を維持するためには、4カ月以上の間隔を空けて定期的に再投与する必要があります。
重度の原発性腋窩多汗症について
重度の原発性腋窩多汗症と診断されるには、原発性局所多汗症の診断基準を満たし、さらに重症の多汗症と判定される必要があります。
原発性局所多汗症の診断基準
以下の6症状のうち、2項目以上の症状があてはまる。
対称性に多汗がみられること
多汗によって日常生活に支障が生じていること
週1回以上の頻度で多汗エピソードがみられること
最初の症状が出たのが、25歳以下であること
家族歴がみられること
睡眠時は発汗が止まっていること
原発性局所多汗症の重症度判定(Hyperhidrosis Diseaseb Severity Scale/HDSS)
以下の3または4にあてはまること
1.発汗は全く気にならず、日常生活に支障がない
2.発汗は我慢できるが、日常生活に時々支障がある
3.発汗はほとんど我慢できず、日常生活に頻繁に支障がある
4.発汗は我慢できず、日常生活に常に支障がある

剪除法(皮弁法)
剪除法(皮弁法)は、ワキガ(腋臭症)の治療として保険適用が認められた手術です。
手術方法としては、まずワキの中心を切開し、そこからアポクリン汗腺を直接切除します。アポクリン汗腺を直接除去できるため、ワキガの根治が期待できる治療法です。
剪除法は、ワキガ治療の中でも特に高い治療効果が期待できるとされています。

ミラドライ
ミラドライは、重度の原発性腋窩多汗症に対する治療機器として、国内で薬事承認を取得しています。
ミラドライはマイクロ波による熱で汗腺を破壊し、発汗を抑制します。破壊された汗腺は活動を停止し、その機能は再生しないため、半永久的な効果が期待できます。また、手術による切開を行わないため、傷跡が残らず、患者さまへの負担が少ない点もメリットです。
なお、ミラドライは保険適用が認められていないため、自費診療で費用は全額自己負担となります。
当院のワキガ治療の特徴

1.形成形成外科専門医による剪除法
皮膚領域を専門とする日本形成外科学会認定の形成外科専門医が診療を担当します。
剪除法の効果は執刀医の技術に大きく依存します。当院では、形成外科の専門医資格を持つ医師が手術を担当し、高い技術で質の高い治療を提供いたします。

2.患者様に寄り添った診療
患者様一人ひとりの症状やお悩みは異なるため、丁寧な診察を心がけ、患者様のお悩みに寄り添った診療を行います。
※古林形成外科 上野院でのワキガ治療は、剪除法による手術のみを行なっております。